面接でぜひ、使ってほしい。【企業体質を一瞬で見抜く】財務的な質問3つ
- 2020.08.23
- コラム
新型コロナウィルス感染症の拡大によって、転職活動を開始する人が増えている。
コロナ禍によって5人に1人が転職を検討
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000008.000048195.html
転職にはどちらかといえば、収入アップなど良い意味でのコンテクストが感じられるが、現状のコロナ禍では、転職した直後、もしくは数ヶ月後に思いもよらなかった憂き目に合う恐れもある。
先に言及しておきたいが、そんな企業がどうして人を募集するのか、という疑問に答えておきたい。
理由は2つだ。
1つめは、「補助金や助成金目当て」。
人を採用すれば、関連する補助金や助成金を受け取ることができる。
不要な人員を削減する→新たに募集し、採用する→補助金を受け取る→規定期間を過ぎたらクビにする→新たに募集する
というサイクルを回している。
ここからは非常にキャッシュ・フローが厳しいことが伺いしれる。
2つめは、「退職前提」。
保険業界や人材系、そしてシステム系に多い。
大半は辞めてしまうだろう。だから多めに採用しておくというものだ。
さらに、被採用者が持つ顧客リストだけを狙っているケースもある。
こうしたパターンは、外部から見抜くことはほとんど不可能だ。
転職会議などの有料サイトで予め情報収集しておくしかない。
決算情報では見抜けない理由
決算書が読めれば、その企業のなんたるかがわかるといったフシを時折耳にするが、10年以上さまざまな業界で金庫番をやっていた人間としては、これを強く否定したい。
なぜか。
答えは極めてシンプルである。
決算書は「過去のもの」であり、「恣意的なもの」であるからだ。
仮に、直近の決算資料であれ、すでに3ヶ月以上は経過している。
企業活動において3ヶ月、つまり四半期にあたり、その間に想定外の変化が起きていても何ら不思議ではない。
決算情報では見抜けないもう1つの理由は、恣意的なものだ。
これはよく知られている。
勘定科目をどこにどう割り当てるかは、会計原則と税法に沿う範囲内なら、作成者の意図に委ねられている。
結果、必ず実態に即しているとは断言することができない。
わかりやすい例を上げれば、在庫関連だ。
資産として計上するかどうかで、結果的に「利益」が変わる。
他にも粉飾決算でよく出てくる掛金も同様だ。
今期に計上するかどうかのほか、そもそも「売掛金」として生きているのかどうか、現場にいなければ判断できない。
このように、決算書は不確定でかつ恣意的なものではあるが、とはいえ、会計的な視点、財務的な視点は必須だ。
それらを活かした次のような3つの質問を投げてみてほしい。
面接で投げてほしい財務的な質問
1)5年後、B/Sはどのようにしたいとお考えですか?
この質問に“具体的に”答えられる企業なら、まず安心だと思ってもらっていい。なぜなら、大半の取締役レベルでも答えられないからだ。
せいぜいが、負債を圧縮する、資産効率を上げる程度の答えしか帰ってこない。(結果、人員削減でV字回復というような児戯しかできない)
売上高をいくらに、営業利益をいくらにといった具合に、P/Lベースが世の常だ。しかし、本来企業の数値において、重要なのはB/Sだ。
その会計年度間において、バランスシート(バランスが取れているからバランスシートと呼ぶ残念な人がいるが、Balanceとは残高の意味だ)をどれだけ積み上げる(もしくは絞る)のか、これが大切なのだ。
そもそもの役割として、B/Sは途中経過であり、P/Lはその会計年度の限りだ。P/Lは翌年0リセットされるが、B/Sはそのまま積み上げていく。つまり、これまでその企業が創業以来取り組んできた結果がそこに現れている。
5年後、B/Sを今と比較して、どのように変えたいと考えているのか。
聞きづらい質問かもしれないが、可能ならぜひ聞いてみて欲しい。
2)CCCは何日ですか?
CCCについては、こちらの記事を参考にしてほしい。
キャッシュを制するものがビジネスを制する<CCCとは?> ※計算式入エクセルフォーム付き
CCCとは、簡単に言えば、運転資金を日数に置換えた指標だ。
仮に一ヶ月で100万円の運転資金がかかるとするならば、CCCは30日となる具合だ。
キャッシュに変わるまでにかかる時間=お金がない時間
を意味する。
当然、できるだけ短いほうが望ましい。
また、CCCはそのまま、「業務フローの総時間」に相似する。
効率的なフローを構築できているか、競合他社よりも1日でも早く納品できるか(もしくはできる取り組みをしているか)などが、この指標から見えてくる。
残念ながら、四季報などには記載されていない。
特定の業種、業界に絞って転職を検討しているなら、各社のCCCを比較するのも悪くない。そのままキャッシュの潤沢性を意味し、結果、企業の安定性や収益性をも意味するからだ。
3)損益分岐を引き下げるためにどのような取り組みをしているか
損益分岐についてはこちらの記事を参照してほしい。
【PL(損益計算書)ベースで黒字でも安心するな】本当の利益をつかむなら変動損益計算書が不可欠_2016年10月22日改訂
簡単に言えば、固定費+利益の額のことだ。
例えば、固定費が100万円、利益が10万円とするならば、損益分岐点は、110万円(限界利益とも言う)だ。つまり、売上高から原価を引いた総利益が110万円になっている売上高のことを損益分岐点売上高という。
仮に原価が50万円だとすると、110万円+50万円=160万円がそれだ。
逆算すると、160(売上)―50(原価)=110―100(固定費)=10万円(利益)となる。
損益分岐は、そのまま企業の収益性を意味する。
原価構造はそのままで、200万円のトレードを10回繰り返すのと、損益分岐の110万円を10回繰り返すのとを比較すれば自明だ。
一度の売上高や利益の大小ではなく、どのような原価構造で取引を繰り返すのかが財務上の肝になる。
となると、この質問の意味するところの重要性がよく見えてくる。
損益分岐を引き下げるための手立ては、
・原価を下げる(限界利益を増やす)
・固定費を下げる
・利益を下げる
の3つだ。
もちろん、単なる会計的な手法にとどまらない。
原価や固定費に何かしらの変化を与えるということはそのままビジネススタイルをどのように変えるのかを意味する。つまりは、戦略に始まり、販促や営業展開をどのようにしていこうと考えているのかの裏返しになる。
本質は答えそのものではない
「そんな質問をしても返ってきた答えが適切なのかどうか判断できない」
と感じたかもしれない。
安心してほしい。
3つの質問の本当に意図していることは、「返ってきた答え」そのものではない。その企業の財務リテラシーを推し量ることが目的なのだ。
常日頃から、財務的な視点に立って事業運営を遂行しているのか、それとも場当たり的に戦略を立て、半ば闇雲に取り組んでいるのか、が透けて見えてくるのが狙いなのだ。
そしてもう1つ狙いがある。
それは、あなた自身の「印象」だ。
財務の視点に基づく質問ができることは、間違いなく「好印象」を与える。
少なくとも、売上や資本の額に言及するような児戯ではなく、5歩くらい踏み込んだ質問ができることは、そのまま企業の戦力としての有効性を表していることにほかならない。
ぜひ、これはと思う企業の面接の際に、使ってみて欲しい。
- 前の記事
その手があったか! 儲けのヒント11 2020.08.14
- 次の記事
その手があったか! 儲けのヒント12 2020.08.28