【発想のゼロ地点へ】フッサールの「判断中止」が導く、革新的ビジネスアイデアの源泉
- 2025.05.19
- コラム

「当たり前」を疑うこと。それは、革新的なアイデアを生み出すための第一歩です。しかし、長年培ってきた固定観念や先入観から自由になることは、容易ではありません。
そこで今回は、20世紀の哲学者エドムント・フッサールが提唱した現象学の重要な概念、「現象学的還元(現象学的エポケー、判断中止)」を、新しいビジネスアイデアの発想に応用する方法を探ります。
現象学的還元(判断中止)とは何か?
現象学的還元とは、私たちが普段、無意識のうちに抱いている対象や世界に対するあらゆる前提、判断、解釈をいったん括弧に入れる(「 」に入れる)という思考実験です。
例えば、「これは椅子である」という判断や、「椅子は座るものだ」という機能的な解釈を一時的に保留し、ただ「目の前にある、特定の形状と材質を持つ何か」として、先入観なしに現象そのものを捉え直そうとします。
この「判断中止」を行うことで、私たちは普段見過ごしている対象の新たな側面や可能性に気づくことができるのです。
ビジネスアイデア発想への応用:3つのステップ
この「判断中止」の考え方をビジネスアイデアの発想に応用するには、以下の3つのステップで考えることができます。
ステップ1:業界の「当たり前」を括弧に入れる
まず、あなたが関心のある業界や、問題意識を持っている分野における「当たり前」の慣習や前提を洗い出します。
- 「〇〇業界では、△△するのが普通だ」
- 「顧客は□□を求めているはずだ」
- 「この製品・サービスは、こうあるべきだ」
これらの「当たり前」をリストアップしたら、次にそれぞれの項目に対して「本当にそうだろうか?」「他の可能性はないだろうか?」と問いかけ、一旦それらの判断を括弧に入れて保留してみます。
例:コーヒー業界の場合
- 「コーヒーは温かい飲み物だ」(→本当に?冷たいコーヒーは?)
- 「コーヒーは苦いものだ」(→本当に?甘いコーヒーは?)
- 「コーヒーはカフェで飲むものだ」(→本当に?自宅やオフィスで楽しむ方法は?)
ステップ2:括弧に入れた「当たり前」を再検討する
「判断中止」によって固定観念から解放されたら、改めてそれぞれの「当たり前」を異なる視点から見つめ直します。
- なぜ、その「当たり前」が存在するのか?
- その「当たり前」によって、誰が、どのような不利益を被っているのか?
- もし、その「当たり前」がなくなったら、何が起こるだろうか?
- その「当たり前」の裏側には、どのようなニーズや潜在的な課題が隠されているのか?
例:コーヒー業界の再検討
- 「コーヒーは温かい飲み物だ」→ 夏場に温かいコーヒーを飲みたい人は少ないのでは?アイスコーヒーの需要は?
- 「コーヒーは苦いものだ」→ 苦味が苦手な人でも楽しめるコーヒーはないか?フレーバーコーヒーや浅煎りコーヒーは?
- 「コーヒーはカフェで飲むものだ」→ 自宅やオフィスで手軽に本格的なコーヒーを楽しみたい人はいないか?
ステップ3:新たな視点からビジネスアイデアを発想する
「判断中止」と「再検討」を通じて得られた新たな視点や気づきを基に、これまでとは異なるビジネスアイデアを発想します。
- 「当たり前」を否定する: 既存の慣習とは真逆のコンセプトを持つ製品やサービスを考案する。
- 「当たり前」の組み合わせを変える: 既存の要素を異なる形で組み合わせることで、新しい価値を生み出す。
- 「当たり前」の対象を変える: これまでターゲットとされていなかった層に焦点を当てる。
- 「当たり前」の手段を変える: 既存のプロセスや技術を、全く新しい方法で実現する。
例:コーヒー業界からのビジネスアイデア
- 「温かいコーヒーは当たり前」を否定 → 猛暑でも楽しめる、新感覚の冷たいコーヒー体験を提供する専門店。
- 「苦いコーヒーは当たり前」を否定 → フルーツのような甘さや香りを持つ、全く新しいコンセプトのコーヒー豆を開発・販売する。
- 「カフェで飲むのは当たり前」の手段を変える → オフィスや自宅で、高品質なコーヒーをサブスクリプション形式で手軽に楽しめるサービスを提供する。
「判断中止」がもたらす革新性
フッサールの「判断中止」は、単に既存のものを否定するのではなく、物事を根源から捉え直し、新たな可能性を発見するための強力な思考ツールとなります。
普段、私たちは多くの情報や先入観に囲まれており、それらが思考の枠組みを無意識のうちに形成しています。「判断中止」を行うことで、これらの枠組みから一時的に自由になり、これまで見過ごしてきた事物の本質や、隠されたニーズに気づくことができるのです。
このプロセスを通じて生まれるビジネスアイデアは、既存の市場の延長線上にはない、真に革新的で、顧客に新たな価値を提供する可能性を秘めています。
さあ、「当たり前」を括弧に入れよう
あなたも、日頃感じている業界の「当たり前」や、解決したいと思っている課題に対して、「判断中止」を試してみてはいかがでしょうか?
固定観念の呪縛から解放されたあなたの思考は、きっとこれまで想像もしなかったような、独創的なビジネスアイデアを生み出すはずです。
「 」の向こう側には、まだ見ぬブルーオーシャンが広がっているかもしれません。
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