【Nintendo Switchに学ぶ】既存市場で成功する発想法

【Nintendo Switchに学ぶ】既存市場で成功する発想法

先日発売されたばかりのNintendo Switchが当初計画の200万台(3月末)を達成し、同社史上最大の販売数を誇ったWiiの記録を塗り替えそうな勢いだ。一時期の不調を雲散霧消させるように彗星のごとく現れた異端のハードウェア。こうした商品はいったいどうすれば生み出すことができるのか。

現在のゲーム機市場

ゲーム機市場におけるメインキャストは、スマホ、PS Vitaや3DSのような携帯型、PS4やxboxのような家庭用据置型、そして、パソコンの4つである。これらが構成する2016年における世界的なゲーミング市場は910億ドル。うち主要なセグメントの販売規模は以下の通りだ。

モバイル:406億ドル
PC:358億ドル(前年比6.7%増)
コンソール(家庭用据置型):66億ドル
eSports:8億9,200万ドル(前年比19%増)
ゲーミングビデオ:44億ドル(前年比34%増)
VR:27億ドル”

SuperData「Market Brief — Year in Review 2016」

こうした市場の差には、性能面の違いも関わる。PC用、据置用ソフトはハイクオリティ、スマホ用は一部の例外を除いて大多数は簡易的であり、手軽だ。本格的なゲームで遊びたいと考えている、熱心なゲームファンを中心にPCや家庭用据置型ゲーム機は支持され、一方スマホは日常の、通勤通学時間や待ち時間などに暇つぶしとしてやりたいと住み分けが形成されている。

「既存市場」へ新たな製品の投入を考える際、担ぎ出す差別化要素として「性能」に目が行きがちである。しかし、今回の任天堂の“異端のハードウェア”がそうした着眼点とはまったく異なるところから生み出されたことは想像に難くない。

「力」ではなく、「技」の発想

任天堂はスーパーファミコン以降、ライバルのプレイステーションの登場によって、ファミコン時代の横綱相撲が封じられている。ハイスペック路線を歩むソニーを力任せに土俵際へ押し出そうと展開したNintendo64の顛末がそれを物語る。

「力」ではなく、「技」で戦うしかない。こうした背景から生まれたのがあのWiiだ。ゲームをしない人、ゲーム自体を否定的に見ている人に向け、ゲーム機=1人で遊ぶものという旧来のイメージと一線を画し、「家族で、多人数で遊ぶ」というコンセプトを据え、世界販売台数1億という途方もない成果を叩き出した。

今回のSwitchも同様だ。これまで分かれていた「家庭用と携帯型との間を埋める」という新たなスタンスで既存市場という戦場に臨み、好調なロケットスタートを切った。

ゲームをしない人向けのゲーム機、据置にも携帯にもなるゲーム機。まさに、「力」ではなく、「技」が効いている。こうした結果を生み出すにはどう発想すればよいのか。任天堂の開発陣が実際にどのような発想法を使ったかは知る由もないが、既存市場での新しい答えを生み出す手立ての1つとして、「定義を問う」という方法がある。

定義を問う

物事には必ず定義がある。例えば、ニュース。世界各地や国内で起きたさまざまな事件や出来事を知らせる、その内容そのものやそれを伝達する媒体のことを示している。

ゲーム機で考えると、ゲーム機とはハードウェア上でさまざまなゲームソフトまたはアプリが動くもの。単純に考えるとこうなるだろう。スマホゲームであれば、アプリをダウンロードして遊び、家庭用ゲーム機は、リビングや自室に据え置き、ハイスペックなソフトで遊ぶものだ。

両者を比べてみると、ゲームをするという目的は同じだ。しかし、「利用場面」は異なる。一方は、「移動中」。もう一方は「自宅」など特定の場所に置くものだ。言い換えると、「動産的」か「不動産的」かという違いが見えてくる。

それはそうだろう、と言われそうだが、ここで立ち止まらずに、なぜ両者は分けられているのか、移動できるか否かの二者択一しかないのかという「問い」を立ててみるのだ。

ゲーム機以外に当てはめてみよう。例えば、最近よく耳にするようになった、さまざまな冠婚スタイル。結婚式もお葬式も、いずれも数年前まではほぼ決まった形式しかなかった。結婚式であれば、ホテルや専用の式場でやるもの、という見えない「定義」があったからだ。なぜ、ホテルや専用の式場でやらなければいけないのか、という定義への問いが出発点となり、現在の多様なサービス形態を生み出しているのは言うまでもない。

定義はしょせん、過去に設定されたものに過ぎず、必ずそうでなければならないというものは極めて少ない。つまりはいくらでも変更可能であり、定義への問いによって、新たな切り口を見つけ出すことができるのだ。

新規事業は既存市場で起こせ

新しいビジネスを、と考えるとき、つい「新市場」や「革新的なイノベーション」を思い浮かべがちである。もちろん、0から何かを生み出すことができれば、最強だ。上場を果たした「ユーグレナ」などがその好例だろう。

しかし、当然、その分のリスクも高い。下手をすると、事業そのものの屋台骨が揺らぎ、ビジネス市場からの退場を余儀なくされる。いかにして、リスクを最小限にとどめ、次の一手を考えるか。その有効策の1つが、需要が十分にあり、今さらそれを確かめるまでもない「既存市場」を狙うことだ。

勿論、既存市場は競争が激しい。だからこそ、正面突撃ではなく、別の切り口を狙うのだ。ゲーム機のような特定プレイヤーで構成された市場であれば、別の突破口さえ生み出すことができれば、一定期間の先行逃げ切りも実現可能性も出てくる。

なお、参入障壁の低いサービス業などは様子が違う。その新たな切り口も早晩容易に模倣される。だからこそ事業基盤の状態を問わず、次の一手を常に模索しておくことが欠かせない。