「発想」にこだわる原体験

岡山にある、大手リサイクルショップにて。その会社の幹部に言われました。

「今、最も重要な経営戦略はフランチャイズによる店舗拡大。現在は50店舗ですが、3年で100店舗にしたい。そのためにシステムを見直したいと考えています」

この会社は上場を目前に控えていました。でもだからこそ、大きな仕事は必ずコンペになります。となれば、先方のリクエスト通りに、チェーン店展開用のシステムを提案するのがセオリーでしょう。しかし・・・・そのとき、何かが心の中で引っ掛かりました。

気がつくと、私は上司2人を飛び越し、真っ赤なワイシャツをいつも着こなす部門長席の前に立っていました。「顔じゃない」と追っ払われるかもしれない。でも、この人なら何かを知っている・・・そんな予感がしたのです。

「ほう、そうか。そんな案件があるのか・・・」

部門長の目が光ったような気がしました。そして、言われたのです。

「とにかくシステム屋の発想を捨てろ。システム屋の常識は世間の非常識だ」

禅問答のようですが、このセリフはいまでも私の頭から離れません。でも・・・

「・・・システム屋の発想ってどうやって超えられるんだ?」

答えのないパズルを突き付けられたような気持ちになっていたとき、ふと、1人の友人の顔が浮かびました。厚生労働省出身で、今はソフトウェアベンダーに籍を置くという少し風変わりな5つ歳上の友人です。私の問いに、彼はつぎのように答えました。

「フランチャイズ展開か。だったら今、資金面でいろいろと大変だろうね。まぁ、そのための上場なんだろうけど。そういえば、TISって金融系強いよね。それじゃないの?」

頭の中に、無数のビックリマークが浮かびました。「!!!!!」。

身体が震える・・・。武者震いって、こういうものなのか・・・。

私は考えました。システムではなく、店舗展開に資金を回したい。なら、一括ではなく、「クレジットカードのように分割で」払ってもらうのはどうだ? 業務システムは一括で払ってもらうが、店舗システムは50店舗で回収できるように分割にする。そうすれば初期投資は減らせるし、50店舗を超えて以降はそのままもらえば・・・。リスクはあるけど、リターンも大きいはずだ!!

一週間後。

「面白い発想をしますね。
とてもシステム会社さんとは思えませんよ。地元のシステム会社にも相談もしましたが、とにかくパッケージソフトの提案をするだけなんですよね」

これでいける!小躍りしかけた次の瞬間、その期待は早々に打ち砕かれました。

でも、せっかくの提案なんですが、実は先に決めることが変わってしまって。1年半、待ってもらえませんか? そのとき、この提案をして欲しいのです。もちろん、勝手なことだとはわかっています」

直属の上司からは、新幹線代の無駄だと叱責されました。

そりゃそうです。私も「やっちまった……」と押しつぶされそうになりました。でもそんな中、ただ1人だけ、赤いシャツを着た部門長が味方になってくれたのです。

「フロアをよく見てみろ。
みんなが忙しくしている案件、これは全部今から3年前、5年前に誰かが必死の想いで取ってきたものだ。おまえのやっている仕事は、うちの会社の3年後を創ることだ。新規開拓するのにお金がかかるのは当たり前だ!交通費なんか気にするな。今後は俺の許可もいらない。おまえのやりたいようにやれ!」

この言葉はその後の私を支え続けてくれました。

1年間、見込みのない飛び込み営業を経て、ようやく掴んだ大きなチャンス。とてもこのまま手放せない。待つしかない。その日から地道に電話を入れ、3ヶ月に1度の岡山詣でーー。そうして1年半後、約束は果たされるのです。

「提案説明会がある」

連絡を受け、喜び勇んで岡山の会議室に飛び込んだ私の目に映ったのは・・・あまりに無情なスーツ姿の人の山。競合は、15社に及びました。

「裏切られた」

そう思いました。
でも、ビジネスです。口約束なんて、なんの効力もない。

”言われたとおりに待っていたおまえはバカだ”

会社に戻ればきっとそう言われるでしょう。
この1年半、いったいなんだったんだ。悔しさがこみ上げてきて、涙が出そうでした。
早く帰りたい。自分が惨めに思えてしかたがない。頭をうなだれ、時間が過ぎるのを待とうとしはじめたとき、担当者がすっと近づいてきました。

「今日は来てくれてありがとう。ずいぶん待たせてしまいました。
なんとかしますから、わたしを信じて、あともう少しだけ、待っていてもらえませんか」

(なんとかするって、また待たされるのか)
普通ならそう思うのかもしれません。

でも、私は嬉しかったのです。「裏切られたんじゃなかった!」とわかったので。

3週間後。

「あれはどうなった? さっさと確認しろ!」と訝しがる上司のプレッシャーに耐えかね、その日の夕方担当者に電話を入れたのです。

電話越しから、少し焦ったような感じが伝わってきました。

「待たせてごめんね。実は今、2社が残っていて、どちらにするか割れているんだ。今晩、社長に直談判するからさ。あと数時間だけ、待っててもらえる?」

直談判?担当者は部長だけど、そんなことして大丈夫なのだろうか。
でも、こちらとしてはどうすることもできない。
とにかく待とう。そう思って受話器を置きました。

6時間後。

ほとんど電気の消えたフロアでぽつんと1人。
もうすぐ日付が変わろうとしたそのとき、携帯が鳴ったのです。

「遅い時間にごめんね。今、終わりました。
“おまえ、TISから金でももらってるのか”、とまで言われちゃったよ。でも、了承取れたから。1年半、待たせてごめんね。これからよろしくお願いします」

「こんな提案をするシステム会社、他にはありませんよ。ほかは全部ただのパッケージとかじゃないですか。それ採用するならコンペなんてやる必要ないでしょ!」

担当部長がそう直談判してくれていたことを知ったのは、受注後すぐのことでした。

売上総額12億7千万円。利益1億1千5百万。
そのあとも続けて受注し、20億円近い売上になったのです。

後日、提案内容について、「いいセンスをしている」と褒められました。

が・・・実はここがポイントなのですが、「センス」などではなく、「分割」という”そのままでは見えない選択肢”に気づけたかどうかの差に過ぎないのです。

普通に考えても見つからないモノがある。

だったら、発想に必要な情報を「データベース」としてまとめてしまえばいい。そうすれば、ヌケ・モレもなくなるし、自分が見落としていたり、そもそも知らない「切り口」も探せる。非常識とも思えるほどインパクトのある、最高のビジネスアイデアが生み出せるはずだ。

こんな想いから生まれたのが、「思考の補助線」です。