【民法改正】個人保証がなくならない理由

【民法改正】個人保証がなくならない理由

120年ぶりに民法が改正されるニュースが流れた。主な改正点は「消滅時効の統一」や「法定利率の3%変動」などの5つである。この中で、さほど大きな改正とは言えないものが1つある。「個人保証」である。今回の改正では制度そのものへの変更はない。保証人だけはなってはいけないとよく聞かれるように、一人の人生を狂わすほどの影響を持つにも関わらず、なぜ、継続されるのだろうか。

保証人とは

保証人には2種類ある。今回の改正でフォーカスがあたった「個人保証」である連帯保証人、そして連帯が付かない保証人である。厳密な説明は割愛するが、最大の違いはその立場にある。連帯保証人は実際にその債務を負う、つまり借入金など金銭貸借契約を締結する当事者と同じ立場、つまり自分が借りたことを意味する。当然、債権者から直接返済を求められても拒否ができないなどの多大な負担がある。

一方の連帯が付かない「保証人」は、結果的に契約当事者に代わって返済の義務を負うのは同じだが、債権者に対してまず契約当事者から請求することや、代弁していれば、債務当事者からその返済を求めることなどができる。つまり、あくまで「保証人」であって「債務者」の立場ではないのが大きな違いだ。

しかし、実務ベースでは「保証人」のケースはほとんどなく、「連帯」が付くのが専らだ。例えば、企業へ就職・転職するときの雇用契約や、奨学金、賃貸物件などの賃貸借契約時などだ。雇用契約では、就職した本人によって当該企業に業務上の失態等によって損害を与えたときや、賃貸借契約は家賃の未払いなどが発生した場合に連帯保証人がその責を負わなければならない。

制度がなくならない理由

事業用資金の個人保証は、「人的担保」とも呼ばれ、銀行からの借入時にほぼ慣習的に登場する。今回の改正では、借入先の経営の実情などを知らない第三者に対して、公証人によるその意思確認が義務付けられた。

改正の背景にもなったとおり、この制度の影響は想像以上に大きい。企業が倒産し、破産手続きを行なったと同時に代表者など保証人個人も自己破産するケースも少なくない。その理由は、借入金が莫大であることに他ならない。事業体が個人事業主ではなく、株式会社など法人であれば、その形態の多くは有限責任としてその出資分の責を負うだけである。しかし、実態は経営環境の悪化を克服しようとし、ギリギリまで資金調達を行うため、結果的にその金額は億単位に上るため、家賃の未払などと違い、到底個人の資力では返済の及ばないものに至るからだ。

ではなぜ、こうした制度があるのか。それは企業が倒産した際の貸付金の立場が弱いためである。破産手続きにおいて残余資産が債権者に対して割当られるが、優先債権(税金、年金など社会保険料、従業員への未払給与など)から文字通り優先的に充当されるため、銀行の借入金など一般債権(通常の取引で発生した売掛金や個人からの貸付金、経費類の未払金など)は結果として債権額の10%も回収できないほどだ。

その弱さをカバーする方法として、真っ先に利用されるのが各都道府県51ヶ所に設置された「信用保証協会」によって事業者に割り当てられた保証枠がある。保証協会は返済が立ち行かなくなった際に、銀行へ代位弁済する公的な「保証人」機能である。(この枠を利用した融資は“マル保付”と呼ばれる)

保証協会の枠だけで借入全額がカバーできれば最も安全だが、他の借り入れによって枠が残っていなければ銀行がリスクを負う、いわゆるプロパー融資となる。そこで登場するのが担保と個人保証だ。

担保は保証協会枠と違い、それだけですべてを補いきれないことが多い。そもそも対象物件があまりない、仮にあっても個人住宅の競売と同様、専用の設備機械など購入原価の大きさとは相反して換金性が弱い、土地・建物への抵当権の設定順位が低いことなど、元本全額に遠く及ばないことがよくあるからだ。結果、その補完として人的担保=個人保証を、となるのである。(実務上は、両者は同時に進められるのが一般的)

この制度がなくなるとどうなるのか

これまでこの制度自体をなくそうとする動きもあったようだが、2017年現在継続されている。今回の改正も3年間の周知期間を経て施行となるため、短くとも2020年までは続くことになる。

仮にこの制度がなくなり、第三者のみならず、当事者である代表者からも個人保証を取らない、もしくは取ってはいけないとなったらどうなるだろうか。端的にいえば、保証協会の枠が残っていない、有効な担保用資産がない企業は、銀行借り入れが極めて困難になることは明らかだ。

仮に実行されたとしても、回収リスク高まる分、相応の金利が上乗せされるだろう。資本調達と同レベルの5%程度ともなれば、返済原資である営業利益はほとんど消えてしまい、返済のための事業運営に陥りかねない。

個人保証には自己破産にもつながる負の側面があるのは確かであり、制度自体をなくすことは社会的にも正しいようにも思える。しかし、結果的に与信上有利ではない企業向けの低金利の調達手段が制限されることや、金利負担の増大を招きかねない。逆説的かもしれないが、個人保証はそうしたことを避ける、ある意味「必要悪のような存在」なのかもしれない。