エルメスで教わった「ブランドの源泉」
- 2024.10.31
- コラム
システム会社時代、高級ブランドのいくつかを担当していた。
エルメスはそのうちの1社だった。
受注後、幾度も通ううちに、気になることが出来た。
「ブランド力」だ。
きっかけは、先方からもらった書類封筒だった。
どの会社でも用意されているA4サイズのあれだ。
契約書だったと思う。
捺印され、クリアファイルに収められた契約書を、封筒とともに手渡された。
ふと見ると、(当たり前のことなのだが)あの馬のマークがどんと印刷されている。
思わず、心の中で「うわっ、エルメスだ」と叫んだ。
続けて、これってメルカリとかヤフオクとか・・・・という貧乏人根性が顔を覗かせた。
いやいやない。それはない。と戒めつつも、折り目がつかないように慎重にカバンにしまい込む自分がいた。
社に戻り、改めて封筒を眺めた。
このロゴマークがなければ、ただの封筒に過ぎないのに、このパワーは何なのか。もちろん、答えなど出るはずもない。
ある日、先方の役員に会うことになった際、意を決して尋ねることにした。なぜ、こんなにもパワーがあるのかを。
名刺交換のあと、意外なほどあっさりと答えてくれた。
「名刺1枚であっても簡単に渡さないんですよ。もちろん、封筒1枚もそうです」
そんな軽々しいものではない。それを店舗だけではなく、社員すべてが日常業務において徹底する。それがブランド力の源泉の1つにあるという。
ブランド力に関するエピソードはもう1つある。
契約して間もない頃、先方の担当者と雑談をしている最中、よく考えずに、聞いてしまった質問がある。
「御社の競合ってどこですか? ヴィトンですか?それとも、シャネル?」
普通の企業なら、すぐに答えてくれるか、そんなことも調べてないのかとお叱りを受けるかのどちらかだ。だが、エルメスの答えはまったく違うものだった。
「競合って何ですか?」
世界のエルメスに競合など存在しない、そもそも言葉すら知らないと。
もちろん、社会人として知らないわけではない。そうではなく、「言葉」として必要がない、使う場面がないという意味だ。
富士通やらNECやらIBMやらアクセンチュアやらと、とにかく日々競合まみれだった自分は、思わず言葉を失うとともに、あまり良くない質問をしてしまったとすぐさま後悔した。
よく考えるまでもなく、世界のエルメスに競合など存在するわけがないのだ。だからエルメスなのだ。
競合はいない。
ここにもブランド力の源泉があることを思い知った。
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