その「ブーム」、新しいビジネスの種じゃないかも? 刹那の流行がビジネスを殺す理由

その「ブーム」、新しいビジネスの種じゃないかも? 刹那の流行がビジネスを殺す理由

「今、〇〇がアツい!」「このブームに乗れば儲かる!」

メディアを賑わす流行、SNSでバズるトレンド。新しいビジネスチャンスを探すとき、多くの人がこうした「ブーム」に目を奪われがちです。確かに、一時的な需要の爆発は魅力的で、手軽に利益を得られるように見えるかもしれません。しかし、安易にブームに乗ることは、実は新しいビジネスを立ち上げる上で非常に危険な戦略であり、長期的な成功を阻む大きな落とし穴となり得ます。

本稿では、なぜブームが新しいビジネスの対象として不適切なのか、その根本的な理由と、真に持続可能なビジネスを築くための視点について深掘りしていきます。

1. サイクルが短すぎる:時間軸のビジネスモデルとの不適合

ブームの本質は、その刹那的な流行にあります。多くの場合、短期間で急激に盛り上がり、そして同じくらい急速に沈静化していきます。例えば、ある特定のキャラクターグッズ、一過性の食品、特定のSNSチャレンジなどがこれに当たります。

ビジネスの立ち上げには、市場調査、企画、開発、生産、マーケティング、そして販売網の構築など、多大な時間とリソースが必要です。これらの準備期間中に、ブームがすでにピークを過ぎてしまう、あるいは完全に終焉を迎えてしまうリスクが極めて高いのです。

「やっと準備が整った時には、もう誰も見向きもしない」という状況に陥れば、投下した資本は回収できず、多大な損失を被るだけです。これは、事業の時間軸とブームの時間軸が根本的に合致しないため、ビジネスモデルとして成立しにくいことを意味します。

2. 競争が過熱しすぎる:レッドオーシャン化による利益率の低下

ブームは多くの人の目に触れるため、参入障壁が低いと感じられる分野では、一気に競合が殺到します。結果として、短期間で市場は「レッドオーシャン」と化し、価格競争が激化します。

例を挙げれば、かつてタピオカドリンク店が乱立した時期がありました。初期に参入した店舗は利益を上げたかもしれませんが、あっという間に競合が増え、価格競争に巻き込まれ、多くの店が撤退を余儀なくされました。

これは、経済学における完全競争市場に近い状況を生み出し、各企業の利益率を極限まで押し下げます。新規参入者にとって、このような状況で差別化を図り、持続的な利益を確保することは非常に困難です。たとえ多少の利益が出たとしても、それは一時的なものであり、事業の成長基盤とはなり得ません。

3. 本質的なニーズの欠如:顧客ロイヤルティの構築不能

ブームに乗って消費者が購入する動機は、多くの場合、「流行に乗っているから」「みんなが持っているから」といった短期的な好奇心や同調圧力に過ぎません。その商品やサービスが、顧客の本質的な課題解決深い欲求を満たしているわけではありません。

このため、ブームが去れば、顧客は簡単に他のものへと関心を移してしまいます。ブランドへの愛着や商品へのこだわりが育たないため、顧客ロイヤルティが構築されません。リピーターが育たず、常に新しい顧客を追い求めなければならないビジネスモデルは、広告費などのコストがかさみ、非常に不安定です。

真に成功するビジネスは、顧客の「不」を解消したり、「こうありたい」という深層的な願望に応えたりすることで、長期的な関係性を築き上げます。ブームだけのビジネスでは、この本質的な顧客基盤を築くことができないのです。

4. 知的財産権と模倣品リスク:差別化の困難さ

ブームに乗った商品は、しばしば模倣が容易であるという特徴を持っています。オリジナル性が高いように見えても、構造や機能が単純であれば、すぐに類似品が出回ります。

知的財産権で保護されていない、あるいは保護が困難なアイデアや商品の場合、後発の企業がより安価に、あるいは大量生産で市場に参入し、先行者の優位性をあっという間に奪ってしまうリスクがあります。これは、特に小規模な新規事業者が直面しやすい問題です。

模倣品との差別化は価格競争に陥りやすく、結果としてブランド価値の低下や利益の圧迫を招きます。

5. イノベーションの阻害:短期志向と長期的な視点の欠如

ブームを追いかけるビジネスは、常に外部のトレンドに依存するため、自社独自のイノベーションを生み出す力が育ちにくい傾向にあります。目の前の流行を追いかけることに精一杯で、長期的なR&D(研究開発)や、顧客の潜在的なニーズを探る深い思考が不足しがちです。

ドラッカーは『イノベーションと企業家精神』の中で、企業は「既存事業を維持し、成長させるだけでなく、新しい事業を生み出すイノベーションの機能を持たなければならない」と述べています。ブームに踊らされる経営は、このイノベーションの機会を奪い、企業の持続的な成長を妨げる要因となります。

まとめ:ブームの先に「持続可能な価値」を見出す視点

では、ブームは完全に無視すべきなのでしょうか? そうではありません。ブームは、一時的な市場の**「熱」を示すものであり、その熱の根底にある「本質的なニーズ」**を探るヒントになり得ます。

例えば、SNSでの流行は、若者層がどのような価値観や欲求を持っているのかを示すインサイトになり得ます。しかし、そのブームそのものをビジネスにするのではなく、そのブームを引き起こした深層にある人間心理や社会の変化を洞察し、そこに持続可能な価値を提供するビジネスモデルを構築することが重要です。

  • ブームの根底にある「なぜ?」を深掘りする: なぜ人々はそのブームに熱狂するのか? どんな感情が動かされているのか?
  • 流行ではなく「不変のニーズ」に焦点を当てる: 流行が去っても、人間の根源的な欲求(承認欲求、健康志向、利便性、繋がりなど)は変わりません。ブームが満たしている表面的なニーズの裏にある、不変のニーズを捉えましょう。
  • 独自の価値提供と差別化を追求する: 模倣されにくい技術、独自のブランドストーリー、質の高い顧客体験など、簡単に真似できない「何か」を構築することが不可欠です。

ブームは、あくまで市場の一時的な現象です。真のビジネスチャンスは、その奥に隠された普遍的なニーズと、それを満たすためのあなた独自の価値創造にあります。目先のブームに惑わされず、冷静な分析と長期的な視点を持って、持続可能なビジネスの芽を育んでいきましょう。