アイデアの泉は「具体」と「抽象」の往復運動に宿る – 新しいビジネスを生み出す思考法
- 2025.05.15
- コラム

「なかなか新しいビジネスアイデアが浮かばない…」
起業家や事業開発担当者であれば、一度はそんな悩みを抱えたことがあるのではないでしょうか。斬新なアイデアは、どこからやってくるのか?それは、天から降ってくるものでも、突飛な発想から生まれるものでもありません。
実は、新しいビジネスの種は、私たちが日常的に触れている「具体的な事象」の中に潜んでいます。そして、その具体的な事象を「抽象化」し、異なる領域の「具体的な事象」と結びつけることで、革新的なアイデアが生まれるのです。
今回は、この「具体と抽象の行き来」という思考法を通じて、いかに新しいビジネスを発想できるのかを、具体的な事例を交えながら解説していきます。
なぜ「具体」と「抽象」の行き来が重要なのか?
私たちは普段、目の前の具体的な事象に囚われがちです。「新聞配達店の売上が落ちている」「タクシーの配車アプリが便利だ」「高齢者の買い物支援が不足している」といった具体的な情報は、問題提起にはなりますが、そのままでは新しいビジネスのアイデアには直結しません。
ここで重要なのが「抽象化」のプロセスです。
- 新聞配達店の売上低下 → 既存の地域ネットワークの活用方法の再考
- タクシー配車アプリの便利さ → オンデマンドでリソースを最適に分配する仕組み
- 高齢者の買い物支援の不足 → 移動が困難な人々への生活支援サービスの必要性
このように、具体的な事象から本質的な要素を抜き出し、より広い概念として捉え直すことで、これまで見えていなかった可能性が広がります。そして、抽象化された概念を、全く異なる具体的な事象に当てはめて考えることで、ユニークなアイデアが生まれるのです。
事例1:音楽ストリーミングサービスの誕生
具体的な事象
かつて、音楽はCDやレコードといった物理的なメディアで購入するのが一般的でした。しかし、これらのメディアは場所を取り、持ち運びにも不便でした。また、気に入らない曲が含まれているアルバム全体を購入する必要があるなど、消費者にとって不満な点も存在しました。
抽象化
これらの具体的な不満を抽象化すると、「いつでもどこでも、好きな音楽を、必要な分だけ手軽に楽しみたい」というニーズが見えてきます。物理的な制約からの解放、所有から利用への変化、パーソナライズされた体験への欲求と言い換えることもできるでしょう。
異なる具体的な事象との接続
この抽象化されたニーズを、インターネットという新たなインフラと結びつけることで、音楽ストリーミングサービスというアイデアが生まれました。物理的なメディアを持つ必要はなく、月額料金を支払うことで膨大な楽曲を自由に聴くことができ、自分の好みに合わせたプレイリストを作成することも可能です。
ポイント
物理的な音楽メディアの不便さという「具体」から、「いつでもどこでも、好きな音楽を」という「抽象」的なニーズを抽出し、それをインターネットという全く異なる「具体」に接続することで、新しいビジネスモデルが誕生しました。
事例2:エアビーアンドビー(Airbnb)の登場
具体的な事象
旅行者はホテルに宿泊するのが一般的でしたが、ホテルは価格が高く、画一的なサービスしか提供していませんでした。一方、個人は空き部屋を持て余している場合がありました。
抽象化
この状況を抽象化すると、「旅行者は、より安価で、地域に根ざした、個性的な宿泊体験を求めている」というニーズと、「空きスペースを持つ個人は、それを有効活用したい」というニーズが存在することがわかります。「所有」から「共有」へ、「標準化」から「多様性」へというキーワードも浮かび上がります。
異なる具体的な事象との接続
この抽象化されたニーズと、インターネットを活用したマッチングプラットフォームという仕組みを結びつけることで、Airbnbが誕生しました。旅行者は、ホテルよりも安価で、現地の人の生活を感じられるようなユニークな宿泊施設を見つけることができ、空き部屋を持つ個人は、それを貸し出すことで収入を得ることができます。
ポイント
ホテルの高価格と画一性、個人の空き部屋という「具体」から、「安価で個性的な宿泊体験」と「空きスペースの有効活用」という「抽象」的なニーズを抽出し、それをインターネット上のマッチングプラットフォームという「具体」に接続することで、新たな宿泊サービスが生まれました。
事例3:パーソナライズされた学習サービスの台頭
具体的な事象
従来の教育は、画一的なカリキュラムに基づいて、大人数に対して一斉に行われるのが一般的でした。しかし、生徒一人ひとりの理解度や得意不得意は異なり、必ずしも効率的な学習方法とは言えませんでした。
抽象化
この状況を抽象化すると、「学習者は、自分のペースや理解度に合わせて、最適化された学習体験を求めている」というニーズが見えてきます。「一律」から「個別最適化」へ、「受動的な学習」から「能動的な学習」へという方向性が示唆されます。
異なる具体的な事象との接続
この抽象化されたニーズと、AI(人工知能)やビッグデータといったテクノロジーを結びつけることで、パーソナライズされた学習サービスが生まれています。AIが個々の学習履歴や進捗状況を分析し、最適な教材や学習プランを提供したり、苦手な分野を重点的に克服できるような仕組みが開発されています。
ポイント
一斉教育の非効率性という「具体」から、「個別最適化された学習体験」という「抽象」的なニーズを抽出し、それをAIやビッグデータという「具体」的なテクノロジーと接続することで、教育のあり方が大きく変わりつつあります。
「具体」と「抽象」の往復運動を実践するために
新しいビジネスのアイデアを生み出すためには、日頃から「具体」と「抽象」を行き来する思考を意識することが重要です。
- 具体的な事象を観察する
日常生活や仕事の中で気になること、不便に感じること、潜在的なニーズなどを意識的に観察しましょう。ニュースやトレンド情報にもアンテナを張り巡らせることが大切です。 - 抽象化する
観察した具体的な事象から、本質的な要素や普遍的なニーズを抽出し、より広い概念として捉え直します。「なぜそうなるのか?」「何が問題なのか?」「人々は何を求めているのか?」といった問いを繰り返すことで、抽象化を深めることができます。 - 異なる領域と接続する
抽象化された概念を、全く異なる分野の具体的な事象や技術、仕組みと結びつけて考えます。「もし〇〇の仕組みを△△に応用したらどうなるだろう?」「〇〇の技術を別の分野で活用できないか?」といった発想を試みることが有効です。 - 具体化する
新しいアイデアの種が見つかったら、それが実際にビジネスとして成立するのかどうかを具体的に検討します。ターゲット顧客は誰か?どのような価値を提供できるのか?収益モデルはどう構築するのか?実現するための課題は何か?などを具体的に落とし込んでいくことで、アイデアを磨き上げていきます。
まとめ
新しいビジネスの発想は、決して特別な才能やひらめきによるものではありません。「具体と抽象の行き来」という普遍的な思考法を意識的に実践することで、誰にでも可能性が開かれています。
日常の中に潜む「具体」に目を凝らし、そこから「抽象」の翼を広げ、全く異なる「具体」と結びつける。この思考の往復運動こそが、革新的なアイデアを生み出すためのエンジンとなるのです。ぜひ、今日からこの思考法を意識して、あなた自身の新しいビジネスの種を見つけてみてください。
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