「完成品」を作ろうとする人ほど、新規事業に失敗する ―柳井正氏の『一勝九敗』から学ぶ、超軽量フレームワークの真価

「完成品」を作ろうとする人ほど、新規事業に失敗する ―柳井正氏の『一勝九敗』から学ぶ、超軽量フレームワークの真価

前記事で、新しいビジネスは「4つの変数(既存ビジネス・課題・変数・変化)」の組み合わせで表現できるとお伝えしました。

しかし、こう思われた方も多いはずです。 「そんなに単純なわけがない。ビジネスのすべてを、たった4つの変数で表現できるはずがないだろう」と。

――その通りです。実際、そんなに甘くはありません。

ビジネスを実際に成立させるためには、この4つの変数以外にも「誰が作るのか」「運用体制はどうするのか」「マーケティングはどうするのか」「コストや資金調達はどうするのか」といった、それこそあと28個ほどの要素を敷き詰めなければなりません。これらを無視してビジネスは成り立ちません。

しかし、ここに新規事業開発における最大の落とし穴があります。

「完全なもの」を作ろうとする人間の本能

私たち人間には、「中途半端なままにしておけない」「やるからには完成させたい」という本能的な欲求があります。そのため、新しいビジネスを考えるときにも、つい最初から「完全な形」に仕上げようとしてしまいます。

  • 運用体制をガチガチに考え、
  • 緻密なコスト計算をし、
  • マーケティング戦略を練り上げ、
  • 数ヶ月かけて、分厚い「完璧な企画書」を作り上げる。

もし、その努力の末に「これなら絶対に儲かる!顧客も大喜びだ!」というものが仕上がり、実際にその通りになれば言うことはありません。 しかし、現実はどうでしょうか。

必死に作り上げた完璧な企画を、いざ市場に出してみる(モニターやヒアリングにかけてみる)と、「そもそもニーズがなかった」「すでに似たような競合がいた」「顧客が求めていたものと違った」という結果に終わる。 これこそが、新規事業で誰もが経験する「最悪のシナリオ」です。

数ヶ月の血と汗と涙の結晶が、一瞬でゼロになる。このときの精神的・金銭的なダメージ(反動)はとてつもなく大きく、多くの人が「もう二度と新規事業なんて考えたくない」と心を折られてしまうのです。

ユニクロの柳井氏でさえ「一勝九敗」であるという事実

新規事業を阻む本当の壁は、起業家の「センス」や「スキル」の不足ではありません。 「考えること自体の負担が大きすぎて、試行錯誤(トライ&エラー)ができなくなること」です。

ここで、ユニクロの創業者である柳井正氏の著書『一勝九敗』を思い出してください。 あの世界的なユニクロでさえ、10回新しいビジネスに挑戦して、成功するのはたったの1回。残りの9回は失敗です。過去にはスポーツウェア専門の「スポクロ」や、野菜の販売事業など、数々の大失敗を重ねてきています。

超一流のプロフェッショナルでさえ、打率は1割(10%)なのです。 だとすれば、私たちの打率はもっと低いかもしれません。50回に1回(2%)の確率かもしれない。

ここで冷静に考えてみてください。 「50回打席に立つために、毎回『完璧な企画書(32個の要素)』を何ヶ月もかけて作れますか?」

答えは「ノー」です。絶対に途中で嫌になります。チャンスを逃すことになります。 ほとんどの人は、最初の3〜4個を必死に作ったところで力尽き、「やっぱりダメだった」と諦めてしまいます。本当は50個ノックを打ち続ければ、その中に大当たりの1個があったかもしれないのに、打席に立ち続けることすらできなくなってしまうのです。

なぜ「4つの変数」なのか?

私たちが打席に立ち続け、本当に価値のあるビジネスにたどり着くためのカギは、アイデアの「数」ではなく、「一定水準の質を保ったアイデアを、どれだけ高速に、大量に試せるか」です。

だからこそ、最初のステップでは、あえて残りの28個の要素をすべて「無視」する。 もっとも本質的な「4つの変数」だけに脳のリソースを絞り込み、アイデアを極限まで軽量化するのです。

これなら、1日に5個、10個と「打率の高いアイデアの骨組み」を量産できます。 まずは「4つの変数」で10個、20個のアイデアを素早く作り、顧客にぶつけて反応を見る。手応えがあった「勝ち筋」に対してだけ、後から残りの28個の要素(運用体制やコスト)を肉付けしていけばいいのです。

個別相談の現場でも、「アイデア自体は素晴らしかったのに、1つの案を完璧に仕上げることに固執し、トライ&エラーを繰り返さなかったために頓挫してしまった」というケースを何度も見てきました。

新しいビジネスを生み出すための真の鍵は、センスではありません。 「4つの変数」を使って考える負担を極限まで減らし、「一勝九敗」の打席に立ち続けるスピードと数を確保することなのです。