アイデアは掛け算で生まれる?『アイデアのつくり方』から学ぶ革新的ビジネスのヒント
- 2025.05.16
- コラム

「新しいアイデアは、既存の要素の組み合わせ以外の何ものでもない」
これは、広告業界の巨匠ジェームス・W・ヤングが著した不朽の名著『アイデアのつくり方』の中で述べられている重要な原則です。一見すると斬新に見えるビジネスアイデアも、深く掘り下げてみれば、これまで存在していた何かと何かの意外な組み合わせから生まれていることが多いのです。
今回のブログでは、この「アイデアは掛け算である」という視点から、『アイデアのつくり方』のエピソードを紐解きつつ、実際に成功したビジネス事例を交えながら、革新的なアイデアを生み出すヒントを探ります。
『アイデアのつくり方』が示す「組み合わせ」の重要性
ヤングは、アイデアを生み出すための5つの段階を示しています。その中でも特に重要なのが、第3段階「アイデアをまとめる」と第4段階「アイデアを育成する」です。
第3段階では、集めた情報という「既存の要素」を、頭の中で様々に組み合わせ、関連付け、試行錯誤します。まるでパズルのピースをあれこれと組み合わせてみるように、異なる要素を掛け合わせることで、これまで見慣れなかった新しい形が生まれる瞬間を待ちます。
そして第4段階では、そうして生まれたばかりのアイデアをすぐに評価するのではなく、一旦脇に置き、時間をかけて熟成させます。この「寝かし」の期間に、無意識のレベルでさらにアイデアが育まれたり、別の既存の要素と結びついたりすることがあります。
ヤングは、アイデアを生み出すプロセスを、まるで植物が種から芽を出し、成長していく過程に例えています。既存の知識や情報という土壌に、組み合わせという栄養を与えることで、新しいアイデアという花が咲くのです。
成功事例1:音楽 × ソーシャルメディア = SoundCloud
音楽を共有するためのプラットフォームであるSoundCloudは、「音楽」と「ソーシャルメディア」という既存の要素を掛け合わせた成功事例と言えるでしょう。
かつて、アマチュアミュージシャンが自身の楽曲を世界に発信したり、ファンと直接繋がったりする手段は限られていました。CDを制作し、ライブハウスで演奏し、口コミで広げていくという、時間と労力のかかるプロセスが一般的でした。
そこに登場したSoundCloudは、ソーシャルメディアの「共有」「繋がり」「フィードバック」といった要素を音楽というコンテンツに組み合わせることで、全く新しい音楽体験を提供しました。ミュージシャンは手軽に自身の楽曲をアップロードし、世界中のリスナーと共有できます。リスナーは好きな楽曲をフォローし、コメントを通じてミュージシャンと交流できます。
これは、既存の音楽配信サービスやSNSにはなかった新しい価値であり、「音楽」と「ソーシャルメディア」という2つの要素を掛け合わせたからこそ生まれた革新的なアイデアと言えるでしょう。
成功事例2:宿泊施設 × 体験 = Airbnb
世界中のユニークな宿泊施設をオンラインで予約できるAirbnbも、「宿泊施設」と「体験」という既存の要素の掛け合わせによって生まれたビジネスです。
従来のホテルや旅館は、寝泊まりする場所を提供するという機能が中心でした。しかし、旅行者のニーズは多様化しており、「その土地ならではの体験をしたい」「地元の人との交流を楽しみたい」といった声も高まっていました。
Airbnbは、個人の住宅や空き部屋を旅行者に貸し出すという「宿泊施設のシェアリング」というモデルに、「地元の人が提供するユニークな体験」という要素を組み合わせることで、単なる宿泊場所の提供を超えた価値を提供しました。
例えば、民泊先で地元の料理を教えてもらったり、ホストと一緒に近所の穴場スポットを巡ったりといった体験は、従来のホテルでは味わうことができません。「宿泊」という既存のサービスに「体験」という新たな価値を掛け合わせることで、Airbnbは旅行のあり方を大きく変えるイノベーションを起こしたと言えるでしょう。
成功事例3:コーヒー × サブスクリプション = コーヒー豆の定期購入サービス
近年、多くの企業が提供しているコーヒー豆の定期購入サービスも、「コーヒー」と「サブスクリプション(定額制)」という既存のビジネスモデルを掛け合わせたものです。
スペシャルティコーヒーの普及により、消費者のコーヒーに対する関心は高まり、自宅で手軽に美味しいコーヒーを楽しみたいというニーズが増えていました。一方、コーヒー豆は鮮度が重要であり、定期的に新しい豆を購入したいというニーズも存在していました。
そこに登場したコーヒー豆のサブスクリプションサービスは、「高品質なコーヒー豆を定期的に自宅に届ける」という形で、これらのニーズに応えました。消費者は毎回お店に足を運ぶ手間が省け、常に新鮮なコーヒー豆を楽しむことができます。一方、提供側は安定的な収益を確保し、顧客との継続的な関係を築くことができます。
これは、「嗜好品であるコーヒー」という商品と、「継続的な購入を促すサブスクリプション」というビジネスモデルを掛け合わせたことで、新たな顧客体験とビジネス価値を生み出した好例と言えるでしょう。
掛け合わせのヒント:既存の要素を「分解」し「再構築」する
これらの成功事例からわかるように、新しいアイデアを生み出すためには、既存の要素をそのまま捉えるのではなく、一度分解して、それぞれの要素が持つ本質的な価値や機能を理解することが重要です。
例えば、「音楽」という要素を分解すれば、「音」「リズム」「歌詞」「感情表現」「共有」といった要素に分解できます。「ソーシャルメディア」であれば、「繋がり」「共有」「コミュニケーション」「フィードバック」といった要素に分解できます。
そして、これらの分解された要素を、全く異なる視点から再構築し、これまで結びつかなかった要素同士を掛け合わせてみるのです。
「音楽の『感情表現』」と「ソーシャルメディアの『共感』」を掛け合わせることで、感情に特化した音楽共有プラットフォームが生まれるかもしれません。「宿泊施設の『プライベート空間』」と「体験の『非日常性』」を掛け合わせることで、隠れ家のようなユニークな宿泊体験を提供するサービスが生まれるかもしれません。
まとめ:日常の中に眠る「組み合わせ」の可能性
私たちは、日々多くの既存のモノやサービスに囲まれて生活しています。しかし、それらを注意深く観察し、それぞれの要素を分解し、異なる視点から組み合わせることで、革新的なアイデアの種を見つけることができるのです。
『アイデアのつくり方』が教えてくれるように、新しいアイデアは決して突飛な発想から生まれるものではありません。既存の知識や経験という土壌に、組み合わせという魔法をかけることで、誰もが独創的なアイデアを生み出す可能性を秘めているのです。
ぜひ、あなたの身の回りにあるモノやサービスを、分解し、再構築し、意外な組み合わせを探求してみてください。そこに、次の大ヒットビジネスのヒントが隠されているかもしれません。
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