【新規事業のヒント】ガス会社が仕掛けた「1ドリンクサブスク」から学ぶ、顧客と事業者を繋ぐ新しい価値創造

【新規事業のヒント】ガス会社が仕掛けた「1ドリンクサブスク」から学ぶ、顧客と事業者を繋ぐ新しい価値創造

新規事業のアイデアを探している皆さん、異業種からのユニークな参入事例は、大きなヒントになります。

今回は、エネルギー企業である東邦ガスが立ち上げ、成功を収めている「フラノミスタ」というサービスから、新規ビジネスの着眼点と成功の鍵を読み解いていきましょう。

1. フラノミスタとは?

フラノミスタは、東邦ガスが2020年10月にスタートさせた「1ドリンクサブスクリプションサービス」です。

  • ユーザー(消費者)向け:
    • 月額550円(税込)で、加盟店のドリンクが毎日1杯無料になる。
    • 2軒目、3軒目といった「はしご酒(ふら飲み)」でも利用可能。
    • 対象ドリンクは660円(税込)以下など、一定の条件あり。
  • 加盟店(飲食店)向け:
    • 加盟登録料・継続料は無料。負担はユーザーへのドリンク1杯無料提供のみ。
    • 個人客・少人数客の新規集客に特化。

一見、本業とは関係のない「飲食物販サービス」ですが、ここには新規事業の成功に繋がる重要な要素が詰まっています。

2. なぜエネルギー企業が「ふら飲み」事業を?:新規事業の着眼点

ガス会社が飲食店を応援するサービスを始めたのには、明確な戦略と「顧客の困りごとの解決」という原点がありました。

A. 既存顧客(飲食店)の「困りごと」解決

サービス立ち上げ当時(コロナ禍)の飲食店は、集客に苦しんでいました。特に、従来のグルメサイトでは会社の宴会目的の集客が多く、自粛ムードの中でその需要が激減。

フラノミスタは、この状況に対し、「個人客・少人数客の集客に特化」し、しかも加盟店側のコストを無料にするという形で、既存の主力事業(ガス・電力供給)の重要顧客である飲食店をサポートすることを目指しました。

B. 新しい収益構造「サブスク」の活用

宴会需要が落ち込む中、東邦ガスが目をつけたのは、ユーザーからの月額課金でビジネスを成立させるサブスクリプションモデルです。

  • ユーザー: 月に1回利用すれば元が取れる手軽さで、来店頻度を向上させる。
  • 加盟店: ドリンク無料は集客の「フック」となり、追加の料理注文(客単価向上)で利益を上げる。
  • 東邦ガス: ユーザーからの安定した月額収益により、サービス全体を維持する。

「全体最適」を追求し、ユーザーの利便性と飲食店の集客支援を両立させる仕組みを構築したことが成功の鍵です。

C. 本業の強みの活用

東邦ガスは、東海エリアに広大な顧客基盤販売チャネルを持っています。これを活用することで、サービスのユーザー数拡大を効率的に進めることができました。異業種参入であっても、自社の既存アセット(資産)をどう活用できるかを考えるのが重要です。

3. 事業成功のヒント:あなたのビジネスに活かす3つの要素

フラノミスタの事例から、新規事業を考える人が学ぶべきポイントは以下の3点です。

① 「フック」と「収益源」を明確に分ける

  • フック(集客の餌): 月額550円、ドリンク1杯無料
  • 収益源(ビジネスの柱): ユーザーの月額会費、加盟店での追加飲食による売上

「サブスクの会費だけで利益を出す」ことに固執せず、「手軽なフックで顧客を集め、本命のサービスや追加注文で収益を上げる」という構造が、特に飲食業界では重要です。(利用条件として1,100円以上の会計が必要な点も、客単価向上への工夫です。)

三方よしの設計を徹底する

新規事業は、関係者全員にメリットがあることが持続可能性を高めます。

  1. ユーザー: お得に飲める
  2. 加盟店: コストゼロで集客・売上アップ
  3. 事業者(東邦ガス): 安定したサブスク収益と既存顧客(飲食店)との関係強化

誰か一人が損をするモデルは長続きしません。関係者全員の「困りごと」を解決する視点が不可欠です。

③ 異業種連携によるネットワークの力を活かす

フラノミスタは、全国の提携する「1ドリンクサブスク」と相互利用が可能です。これにより、自社のエリアを超えてサービスの価値を高めています。

自社の事業領域だけでなく、「同じ課題を持つ他社と組むことで、サービスの魅力を何倍にも高められないか」という視点を持つことが、全国展開や競争力強化の鍵となります。


異業種からの参入だからこそできる、常識にとらわれないアイデアがフラノミスタの成功を生みました。あなたの持っている既存のアセット(顧客、技術、信頼など)と、ターゲット層の「小さな困りごと」を結びつけ、新しい価値を創造するビジネスモデルをぜひ探してみてください。