アイデアは「つくる」もの。プロダクト3層モデルで革新的な発想を生む思考法

アイデアは「つくる」もの。プロダクト3層モデルで革新的な発想を生む思考法

「革新的なアイデアは、ある日突然、天才的なひらめきで生まれるものだ」――そう信じていませんか?

もしそうなら、その考えは今日で捨ててください。

世界中の画期的なプロダクトやサービスは、決して偶然の産物ではありません。そこには必ず、論理的で体系的な「発想の手順」が存在します。特に、既存のプロダクトを再定義するような真のイノベーションは、このプロセスを抜きには語れません。

この記事では、プロダクトの価値を構造的に捉える「プロダクト3層モデル」を使い、JINS MEMEという日本の眼鏡メーカーがどのようにして「眼鏡」の概念を根底から覆したのか、その思考プロセスをひも解きます。この記事を読み終える頃には、あなたの目の前の製品やサービスが、全く新しい価値を持つプロダクトに生まれ変わるヒントが見つかるはずです。


1.なぜ発想の「手順」が重要なのか?

多くの人が新しいプロダクトを考えるとき、まず最初に「どんな機能を追加できるか?」と考えがちです。

「既存のスマホに心拍数測定機能を追加しよう」
「普通の電気ケトルにAIを搭載して、お湯を沸かす時間を自動で調整させよう」

しかし、これは「機能の足し算」に過ぎません。なぜなら、顧客がプロダクトにお金を払うのは、単なる機能ではなく、その機能が提供してくれる「本質的な価値」に魅力を感じているからです。単なる機能は、その価値を実現するための「手段」に過ぎません。

例えば、顧客は「ドリル」を買いたいのではありません。彼らが本当に欲しいのは、「壁に開いた穴」です。そして、その穴を通して、「棚を取り付けられる」という利便性や、「部屋を整理できる」という快適さを手に入れたいのです。

イノベーションを生むには、「どうすれば新しい機能を追加できるか?」ではなく、「どうすれば顧客の課題を、より深く、より本質的に解決できるか?」という問いから始める必要があります。そのための強力なツールが、プロダクトの価値を3つの層に分解して考える「プロダクト3層モデル」**です。


2.イノベーションの設計図「プロダクト3層モデル」の基本

プロダクト3層モデルは、製品やサービスの価値を以下の3つの階層で整理するフレームワークです。

【中心層】コア・ベネフィット

顧客が本当に得たい「本質的な価値」。プロダクトの中心にある、最も重要な存在理由。ここが崩れると、プロダクトの価値はゼロになります。

例:「見えないものをハッキリさせる」「退屈な時間を楽しくする」「不安を解消する」。

【中間層】プロダクトの実体

コア・ベネフィットを実現するための「具体的な機能」や「特徴」。

例:製品の機能、デザイン、品質、価格、ブランドイメージ。これは、中心の価値を形にするための肉付けです。

【外側層】付随サービス

プロダクトを補完し、顧客体験を向上させる「追加的なサービス」や「サポート」。

例:アフターサービス、情報提供、パートナー、販売チャネル。これは、顧客がプロダクトを手にし、使い続けるまでの体験全体を支えます。

このモデルを使うことで、プロダクトの価値を要素に分解し、どの部分に手を入れるべきかを論理的に判断できるようになります。


3.JINS MEMEに学ぶ、発想を組み立てる3つのステップ

それでは、JINS MEMEという画期的なプロダクトが、このモデルのどの部分に手を入れることで生まれたのか、その発想の手順をひも解いていきましょう。

ステップ1)既存プロダクトの「当たり前」を徹底的に分解する

まず、世の中にある「一般的なメガネ」が、どのような価値を提供しているかを、プロダクト3層モデルで徹底的に分解します。

中心層(コア・ベネフィット):

  「視力矯正」「自己表現」「目の保護」

中間層(プロダクトの実体):

 機能: 視力矯正、紫外線カット、ブルーライトカット。
 デザイン: フレームの形状、カラー、素材。
 品質: 度数精度、耐久性、フィット感。
 価格: フレーム価格、レンズ価格、ブランドイメージ。

外側層(付随サービス):

 関連サービス: 視力検査、フィッティング、レンズ交換。
 提供チャネル: 眼鏡店、オンラインストア。
・・・・ets

この分解作業で最も重要なのは、「当たり前」とされている部分を客観的に見つめることです。一般的なメガネの発想は、「どうすれば、よりよく見えて、よりかっこいいメガネを作れるか?」という、中心の価値を前提とした改善に終始しています。しかし、JINS MEMEの開発チームは、この「当たり前」を疑うことから始めました。


【ワーク:あなたの身近な「当たり前」を分解してみよう】

身近なプロダクトを一つ選び、以下のモデルで分解してみてください。

例:歯ブラシ

 中心層(コア・ベネフィット): 「歯を清潔にする」
 中間層(実体): ブラシの毛、柄の形状、素材、価格
 外側層(サービス): 歯医者での推奨、専用の置き台

このワークを通して、多くのプロダクトが「中心の価値」を前提に、中間層や外側層で差別化を図っている構図が見えてくるはずです。


ステップ2)中心の「コア・ベネフィット」を再定義する

これが、イノベーションを生む最も重要なステップです。
JINS MEMEは、一般的なメガネのコア・ベネフィットである「視力矯正」という概念をあえて捨て、全く新しい価値をメガネに与えました。彼らは「見る」という機能から、「生体情報を測る」という機能へと大胆にピボット(方向転換)しました。そして、その先の新しいコア・ベネフィットとして、「セルフケア」や「生産性向上」を掲げたのです。

この再定義は、以下の3つの思考法を組み合わせることで生まれます。

【課題の深掘り】

・「視力矯正」の裏にある、潜在的な顧客の課題は何だろう?

・パソコンやスマホを長時間見続ける現代人は、目が疲れる。単なる視力回復だけでなく、「疲労の根本原因を知りたい」という潜在ニーズはないか?

・疲労は集中力の低下を招く。仕事や勉強において、「集中力をどうすれば維持できるか」という課題を抱えているのではないか?

この深掘りから、JINS MEMEは「集中力の維持」という、従来のメガネメーカーが扱ってこなかった課題を発見しました。

【テクノロジーの掛け合わせ】

・発見した課題を解決するために、どんなテクノロジーを掛け合わせられるだろう?
・現代のテクノロジーは、ウェアラブルデバイスやIoTの進化により、「生体データを計測する」ことが可能になっている。

・メガネという常に顔の中心にあるデバイスは、脳波や眼球運動といった精度の高い生体データを計測するのに最適なのではないか?

【異業種のコンセプト導入】

集中力や健康を扱う分野はどこだろう?

スポーツの世界では、「パフォーマンスの可視化」が当たり前になっている。
ヘルスケアの世界では、「セルフモニタリング」が主流になりつつある。

これらのコンセプトをメガネに導入すれば、「眼鏡をかけるだけで、自分の心と体の状態を可視化できる」という全く新しい価値を生み出せるのではないか?

この3つの問いから、JINS MEMEは「セルフケア」「生産性向上」「新しいテクノロジー」という、従来のメガネとは全く異なる3つのコア・ベネフィットを導き出しました。


ステップ3)新しい価値から全てを再構築する

中心の価値が変われば、それに紐づく中間層と外側層の要素も全て再定義されます。JINS MEMEは、このステップを徹底的に実行しました。

このように、中心の価値が「目の健康」から「心と体の健康」へと変わったことで、提供すべき機能や、協業すべきパートナー、収益モデルに至るまで、全てが論理的に導き出されていることがわかります。これは、単に機能を追加した「高機能なメガネ」ではなく、全く新しいプロダクトなのです。


4.まとめと次のアクション

この記事で紹介したように、革新的なアイデアは決して天才のひらめきではありません。それは、既存のプロダクトの「当たり前」を疑い、顧客の「本当の課題」を見つけ出し、その課題を解決するために「コア・ベネフィット」を再定義し、それに合わせて各要素を論理的に再構築する、という手順を踏むことで生まれます。

プロダクト3層モデルは、その発想をサポートしてくれる強力なツールです。

さあ、あなたの周りにある製品やサービスを一つ選んで、この記事で学んだ3つのステップを試してみてください。きっと、今まで見えていなかった、新しいビジネスの可能性が見つかるはずです。