なぜ「松のや」はとんかつ業界を席巻できるのか【3つの会計視点】

手頃な価格で美味しいとんかつが食べられる「松のや」。皆さんも一度は利用したことがあるのではないでしょうか。実はこの「松のや」、ただ安いだけではありません。会計の視点からその強みを読み解くと、とんかつ業界で圧倒的な存在感を放つ理由が見えてきます。
1. 財務諸表から読み解く「低コスト構造」
松のやの強さは、親会社である株式会社松屋フーズホールディングスの財務基盤に支えられています。特に注目すべきは、外食産業の収益性を測る上で重要な指標であるFLコスト(Food Cost:食材費、Labor Cost:人件費)の効率性です。
松屋フーズホールディングスの決算資料によると、売上高に対する原価率(Food Cost)は概ね30%台前半から半ば、人件費率(Labor Cost)は30%台半ばで推移しており、両方を合わせたFLコストは60%台半ばに収まっていることが分かります。これは、長年の経験から確立された食材の大量一括仕入れや、工場で集中加工するセントラルキッチン方式によって、食材費を効率的に管理しているためです。
また、松屋と同じく券売機やセルフサービスを導入することで、従業員がレジ業務に割く時間を減らし、人件費を削減しています。この低FLコスト構造が、高品質なとんかつを手頃な価格で提供できる最大の理由であり、価格競争力に直結しています。
2. 資本の効率性を高める「店舗戦略」
松のやは、親会社である松屋の既存店舗の隣に出店する「複合店舗」の形態を積極的に採用しています。これは、資本効率の視点から非常に理にかなった戦略です。
通常、新しい店舗を出す際には、土地の取得費用、建物の建築費用、厨房設備や内装などの設備投資に多額の資金が必要となります。しかし、複合店舗にすることで、既存のインフラ(土地、建物)を共有し、厨房設備やスタッフを一部共通で利用することができます。これにより、新規出店にかかる初期投資(設備投資)を抑えることができ、投資回収期間の短縮と早期の利益貢献に繋がります。これは、貸借対照表上の固定資産の増加を抑えつつ、キャッシュフローの改善にも寄与する賢い経営判断と言えます。
3. 安定経営を支える「ポートフォリオ経営」
松屋フーズホールディングスは、牛丼の「松屋」を主力事業としながら、とんかつの「松のや」、カレーの「マイカリー食堂」など、多様な業態を展開しています。
これは、特定の市場や食材価格の変動リスクを分散させる「事業ポートフォリオ戦略」の一環です。たとえば、牛肉の価格が高騰した場合、牛丼事業の収益性は一時的に圧迫されますが、とんかつ事業の売上が好調であれば、グループ全体の収益は安定します。これにより、経営上のリスクを分散し、持続的な成長を可能にしています。
結論:ただ安いだけじゃない!緻密な経営戦略が強さの秘密
松のやが手頃な価格でとんかつを提供できる背景には、親会社である松屋フーズホールディングスによる緻密なコスト削減戦略と効率的な事業運営があることが分かります。
私たちが何気なく食べているとんかつには、このように計算し尽くされた企業の努力が隠されているのです。次に松のやに立ち寄った際は、美味しいとんかつを味わいながら、その経営戦略にも思いを馳せてみてはいかがでしょうか。
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