成功モデルを逆算する_case02_海外旅行 現地のプロと作る「OOOH」
- 2019.12.29
- コラム
成功モデルを逆からたどる第二弾です。
この記事の目的は、たった1つ。
あのビジネスモデルは、どのようにして思いついたのか、
その仮説検証をするものです。
第一弾は、スープストックトーキョーを手掛けるスマイルズの新感覚書店「文喫」でした。
成功モデルを逆からたどる_case01_有料書店「文喫」
第二弾となる今回は、
knowte株式会社が展開するまったく新しい海外旅行のしかた
「OOOH」
https://www.oooh.jp/
です。
1.OOOHとは
WEBサイトによると、
来店もPCも不要!スマホだけで経験豊富な現地旅行会社とあなただけの旅行プランが作れます
とあります。
そして、
現地のプロに相談できる
相談相手は現地で旅行業を認可されたプロなので安心して相談することができます。現地ツアー、送迎、レストラン手配、アクティビティーなど気に入った提案はまとめて手配をお願いできます日本語でチャット
日本語で対応できるオペレーターがいる旅行会社を厳選しているので、チャットは全て日本語でしていただけます。安心してご利用ください。個別のご要望に沿った手配が可能
ゴルフ場予約、専用車、鉄道、視察旅行の手配などお客様の個別のご要望に沿ったご対応ができますので、まずはご相談ください。
という魅力的な3つの特徴を持っています。
2.従来の海外旅行との違い
普通、海外旅行に行くと決めたら、HISや阪急交通社など大手旅行会社のWEBサイトを見るのが一般的です。もしくは、駅などにある旅行会社の営業窓口に足を運んで相談する。
もしくは、旅慣れた人なら、エクスペディア(https://www.expedia.co.jp/)などを使い、航空券とホテル予約を直接済ませるツワモノもいるかもしれません。
翻って、この「OOOH」は、「現地のプロ」に相談する。
旅行会社ではない、新たな相談相手の登場です。
ここが最大の違いです。
3.この着想にたどり着くにはどう考えればいいのか
第一弾と同じく、次の4つの手順に沿って掘り下げていきます。
1)ビジネステーマについて
→ WHERE、つまり、戦う場所です。
2)既存のビジネスモデルと市場について
→ 戦う場所が、どのようなところなのか、そしてどんな「敵」がいるのか
3)消費者が持つ「不」
→ 今あるビジネスについて、消費者(利用者)はどのような不満を抱えているのか
4)導き出される「解決策」
→ 既存ビジネスではクリアできていないポイントを押さえつつ、「不」の解消をするためにはどう考えるか。
1)ビジネステーマについて
テーマとして適切かどうか、この点を確認するためには、
・継続性
・認知度
があるか、です。
継続性は、文字通り、「繰り返し」使ってもらえるものかどうか、です。第一弾の「文喫」の場合、「書店」でしたから、この点はクリアしていました。
本は1冊買って終わりではありませんよね。
人生のうちで、何度も、何冊も買うことになります。
では、海外旅行はどうでしょうか?
その頻度に差はありますが、間違いなく「繰り返し=継続性」を持っています。
次に「認知度」はどうでしょう?
知らない人はいませんよね。
継続性と認知度の2つとも満たしているので、
選ぶテーマとして、海外旅行は適切です。
2)既存のビジネスモデルと市場
テーマに問題がなければ、次は既存のモデルと市場です。
つまり、「戦う場所」と「戦う相手」です。
①海外旅行にまつわるビジネスモデル
既存のモデルはどうなっているでしょうか?
海外旅行を含む、旅行会社が行う旅行ビジネスは、
・企画旅行
・手配旅行
の2つに分かれています。
企画旅行は、さらに「募集型」と「受注型」の2つに分かれます。
よく、駅などに「パンフレット」がおいていますよね。
あれが「募集型」です。
日本旅行(JTB)の旅行業約款には、
「募集型企画旅行」とは、当社が、旅行者の募集のためにあらかじめ、旅行の目的地及び日程、旅行者が提供を受けることが出来る運送又は宿泊のサービスの内容並びに旅行者が当社に支払うべき旅行代金の額を定めた旅行に関する計画を作成し、これにより実施する旅行をいいます。
とあるとおりです。
一方の「受注型」は、いわばオーダーメード型。
顧客の要望に沿って、プランを組み立てるもの。例えば修学旅行や企業のツアーなどがこれに当てはまります。
手配旅行は、旅行者が計画を立て、ホテルの予約やチケットなどだけを旅行会社に依頼するものです。
さて、旅行会社のビジネスモデルを一言でいえば、形態を問わず「代理店ビジネス」です。
航空会社などの交通機関やホテルなどの宿泊施設、現地のオプショナルツアーを運営する会社との間を取り持ち、旅行者にパッケージもしくは個別に紹介。その結果、ホテルや航空券、旅行保険やオプショナルツアー、申請の代行によって、手数料を得ます。
そのフローは(募集型企画旅行の場合)
1)プランを企画・設計する(航空会社、ホテル、オプショナルツアーの運営会社との連携)
2)窓口(リアル・WEB)を設けて、「相談」「申込」を受け付ける
3)内容に応じて、旅行代金を受け取る
4)旅行の手配・実施
です。
このモデルに登場するホルダーには、
・旅行会社
・航空会社(船舶)
・ホテル
・オプショナルツアーの運営会社
・保険会社
・担当者
・旅行者
といったものが登場します。
ここでお気づきの方もいると思いますが、代理店ビジネスとは、いわゆる「マッチング」です。どのホテルをプランに入れるか、マッチングしているわけです。(手配型であっても、依頼内容に応じて、マッチングしています)
旅行会社を通さない
旅行会社を通さず、個人ですべて手配するネットでLCCの格安航空券を購入+宿も価格比較サイトでチエックして個人で手配する、FIT旅行(Foreign Independent Tour)のシェアも増えています。
国内旅行でも同様で、一休.comなどでホテルだけ予約しておき、直接観光地や出張先に行くパターン、多いですよね。
ただ、このFIT旅行が増加傾向にある一方で、旧来からの旅行会社のビジネススタイルは、上述の「代理店ビジネス」から大きな変化を遂げていません。
この旧態以前の影に隠れていた、「自分ですべてやりたい」と思っていた人々の気持ちを反映させたのがFIT旅行といえるでしょう。
②市場
旅行会社と聞けば、パッケージツアーを思い浮かべると思いますが、取扱金額は、
全体の約8%しかありません。
観光庁「旅行業者取扱額」2019年度版より
取扱額の直近5年間で見ると、ほぼ横ばいですが、日本人の海外旅行者数は、
JTB総合研究所「海外観光旅行の現状」各年度より抜粋して作成
と、2013年から2015年にかけ、一時的な落ち込みはあったものの、その後右肩あがりが続いています。
主要旅行業者による取扱額はそれほど大きく伸びていない一方で、日本人の海外旅行者数が増加傾向にある。
つまり、「旅行会社」を通さない、FIT旅行、つまり直接ネットで探して自分でプランや予約を済ませる人が増えつつあることがここから見てとれます。(旅行業全体は、近年のインバウンドの増加によって堅調に伸びています)
3)消費者が持つ「不」
旅行会社が取り扱う海外旅行は横ばい、しかし、海外に行く日本人は増加傾向にあることがわかった。
では、海外旅行に行く消費者にはどんな「不」が存在するのでしょうか。
その前に、もう一度、今ある海外旅行ビジネスについて振り返りましょう。さきほど、旅行ビジネスは、「代理店ビジネス」だとご紹介しました。
そして、ここ5年ほど前からチケットや予約のみを提供するエクスペディアなどのOTA(Online Travel Agent)というモデルが登場。FIT旅行と呼ばれるものですね。
経済産業省の「電子商取引(EC)に関する市場調査」によると、2013年に2兆 4415億円だった「旅行サービス」におけるBtoCのEC市場規模は、2017年には約4 割増の3兆3742億円まで拡大。2014年以降の前年比伸び率は、7.7%、9.7%、 5.4%、11.0%と推移し、拡大傾向が続いています。
OTAは、言い換えればチケットなどの「物販」、つまり「直販」です。
一方の従来の代理店型は、店舗にスタッフを配置し、そこでやりとりする。一方のOTAは、それらをなくし、直接利用者が必要なものを手配する。
「代理店」VS「直販」
この対立関係、何かに似ていませんか?
そうです。
銀行の窓口とATMですね。
キャッシュレス化や便利な送金・決済サービスが拡大する中、銀行の有人店舗は減少する一方です。旅行業も銀行業もいずれもデジタル化が大きく進み、スマホでできるのが当たり前になりました。
さて、こうしたモデルの変化の中、どのような消費者の「不」が存在するのでしょう。
株式会社 旅工房が実施した調査によると、
(旅工房 https://www.tabikobo.com/)
・旅行の計画を立てる際に「インターネット」を利用する人が85.4%
・旅行の計画に「手間がかかる」、「難しい」などのストレスを感じる人が約7割。
(主な理由)1位:「情報や選択肢が多い」
2位:「すぐに好みの情報が見つからないから」
3位:「飛行機やホテルの予約の手続きが面倒なため」・66.5%が気づいたらいつも同じスポットや内容で旅行しているなど、
“旅行のマンネリ化”を感じたことがある
・良い旅行計画を立てる為に、6割以上が「知識」が足りないと回答
・旅行経験豊富なトラベル・コンシェルジュに相談やアドバイスをもらいたいと65.4%が回答
とあります。
旅行会社の窓口に行かずとも、自分で検索し、チケットなどを手配できるようになった。しかし、「自由度」が増した分、その弊害として、判断するための「知識不足」に悩まされるようになった。
(銀行機能の場合、ATMであれ、送金・決済サービスであれ、そこで完結してしまうので、こうした課題は発生しません)
再び旅行会社に戻るか
自分で探すなら、旅行会社に再び戻れば、とも思えます。
しかし、どうやらその傾向にはなく、FIT旅行の傾向が強まる一方のようです。
FIT割合が最も多いのは50代男性(69%)。一方、60歳以上では傾向がやや異なる。男性60歳以上では、現地ガイド付きツアーが17.0%、添乗員付きツアーが18.0%、団体旅行その他が3.9%で合計約4割が自由行動以外のツアーを利用。女性60歳もガイド付きが15.5%、添乗員付きが25.2%、団体旅行その他が3.9%となり、全体の45%を占める結果となっている。
(引用:トラベルニュース)https://www.travelvoice.jp/20170612-90858
実際、旅行慣れしている人ならよくわかると思いますが、パッケージ旅行の場合、どうしても、「旅行会社の都合」が優先されます。結果として、安く行けるわけですから致し方ないのですが、どうせなら自分で行きたいところに行きたい。事実、
旅行形態では、個人で宿泊や航空チケットを手配する個人手配旅行(FIT)が55.1%と過半数越えに。スケルトンツアーとよばれる自由行動型ツアー(送迎あり・なし)を含めると、全体の約8割は旅行先での「自由行動」を選択していることが判明した。
(引用:トラベルニュース)https://www.travelvoice.jp/20170612-90858
とあるとおりです。
FITが伸びているのは、まさにこの点を突いているからでしょう。
”旅行会社が提供する「スケルトンツアー」もいいが、そうなると、旅行会社に頼む意味が?になる。一方で、エクスペディアなどを使えば、もっと安く行ける”
しかし、上述したとおり、自分で選べる自由度が増した分、情報過多に悩まされるようになった。
消費者はこうしたジレンマに陥っているわけです。
4)導き出される「解決策」
自分でも探せるが、そうすると今度は情報が多すぎて、つい知っているところや以前に行ったところを選んでしまう。かといってパッケージツアーだと行きたくないところも入っている。
この気持ちの深層には何があるのか。
さきほどの株式会社旅工房の調査にもあったとおり、海外旅行に詳しい人に相談したい、でしょう。
いや、であれば旅行会社に、とはなりません。
注意したいのは、あくまで「相談」をしたいのです。自分が行きたくない場所の話や、オプショナルツアーの話はどこまでも不要なのです。
つまり、「旅行会社の専門知識」と「OTAの手軽さ」、この2つを兼ね備えた存在の登場が必要だったわけです。
ヘーゲルの螺旋的発展
なんだか、行ったり来たりしているな。
そう思われた方もいるかもしれません。
歴史的に振り返ってみると、旅行は本来自分で組み立てるものでした。
国内で言えば、旅行会社が登場するのは明治時代に入ってから。
旅そのものは平安時代からあったそうですが、江戸時代に入っても、基本的にお伊勢さんや熊野三山へ個人でいくものでした。
明治を経て、1960年代になって初めて渡航の自由によって日本人の海外旅行が始まります。とはいえ、この頃はまだ富裕層限定でしたが。
こうした歴史を振り返ると、
自分で組みたてる(江戸時代以前)
↓
旅行会社が誕生(昭和)パッケージツアーで行く
↓
インターネットが当たり前になる(平成)
↓
OTA企業が誕生。自分でチケットを手配する(平成〜令和)
↓
今、ここ
ときています。
ここで、改めてこの流れを見ていただくとわかるとおり、ネットの存在という新たな付加価値を付けて「旅行は自分で」という江戸時代以前に戻ったことがわかります。
以前あったものが、新たな価値を引っさげて(発展して)回帰してくることを、螺旋的発展と言います。これは19世紀のドイツ観念論で有名な19世紀のドイツの哲学者ヘーゲルが提唱した考え方です。
※ヘーゲルの本は、あまりにも独特ですので、詳しく知りたい方は、以下をおすすめします。
ヘーゲルの螺旋的発展に基づくと、「自分で組み立てる+α」、この+αの部分が当たり前になったネット上で提供されることが次に来る、ことがわかります。
この+α部分で何を提供すればいいのか。
消費者が求めているのは、「相談」。
プロ・専門家の意見です。
その答えの1つして、ご紹介した「OOOH」は、「現地のプロ」でした。つまり、旅行会社が持っている「専門知識」だけを取り出し、アレンジした格好です。
第一弾でもご紹介した、差別化実現のための「アレンジポイント」のうち、1つ目の「モジュール」に相当します。
さきほど登場した銀行業であれば、いまや一般化した「決済サービス」や「送金サービス」だけをモジュールとして切り出し、新たなサービスとしてリリースする。
翻って、エクスペディアなどのOTAもこれに相当します。
旅行業に限らず、この「モジュール戦略」はまだまだビジネスチャンスの余地があります。ぜひ、検討してみてください。
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