「先行者利益」を勝ち取る経営者が頭の中で考えていること
- 2023.07.24
- コラム
大手システム会社時代、フランチャイズ本部にフォーカスして営業をかけていたことがある。いわゆるフランチャイザーだ。(加盟店はフランチャイジー)
きっかけはセブン-イレブンの事例だった。
ほぼ定期的に大規模なシステム再構築が行われる。その額が途方も無い。何万という店舗が存在するからだ。一度参入することができれば、以降は手放しで受注できる。そんなことを目論んでのことだった。
ただ、(至極当たり前のことだが)セブン-イレブンを始め、メジャーなFCには富士通や野村総研などの競合の屈強な牙城になっていた。そこで、FC本部を立ち上げたばかり(数カ所直営店をリリース程度)の企業にフォーカスし、横展開を試みた。
多くは地方に拠点を構えていたために、随分と交通費と時間を要したが、それ以上に経験として得るものがあった。
その1つが、「先行者利益」だ。
先行者利益を勝ち取る経営者は一体何を考えているのか
ある時、中国地方にある総合病院に呼ばれたことがあった。
今ではすっかり一般化している介護施設「グループホーム」のFC本部を立ち上げるのだという。ついては、運用システムを開発、データセンターでの運用保守もお願いしたいとの話だった。
グループホームなるものが何なのか、説明は不要だろう。
ただ、その頃(約20年前)にはそのような施設はほとんどなく、まさに未開の市場だった。
ヒアリングを済ませた結果、要件定義だけで数千万円の案件となった。普通の営業なら、このまま両手を挙げて喜べるところだが、システム屋は違う。
ITの世界に席をおいたことがある人なら違和感はないだろう。
システム開発の費用なるものは、金融系を除いてほとんどの業界でなかなか理解されづらい。目に見えないものにどうしてそんなに費用がかかるのかとお叱りを受けたことは数えきれない。
この金額は厳しいだろう、と半ばあきらめていた。
ところが、先方の理事長の反応は意外なものだった。
「なるほど、わかりました。これで結構です。
このまま続けてください」
大きな疑問符と動揺が頭をよぎったが、ここは話を変えてしまったほうが得策だと考え、
「ありがとうございます。
ところで1つ教えて頂きたいのですが・・・」
と、グループホームなる、まだ日本にはないものをなぜ立ち上げようと考えたのか。しかも多額の開発費用を支払ってまでととっさに質問に切り替えた。
「北欧では一般的になっているものなんですよ。しばらくすれば欧米や日本にも確実に広がります。だから、今がチャンスだと考えています」
「ただし、このビジネスは最長10年で終了させますが」
事業開始の時点で、EXITのタームまで織り込まれている。
どういうことだろう?
当時の自分の経験値では到底頭が追いつかなかった。
ただ、理事長の言葉は確かだった。
それから(厳密には12年後だが)途中マザーズの上場を経て、この病院はグループホーム事業を最大手の介護関連企業に売却した。売却金額はシステム開発費用の数百倍にもなっていた。
ギャンブルではない
途方もないギャンブルだと思われたかもしれない。
もしくは、動物的とも言える経営センスだと。
当時は自分もそう思っていた。
10数人いたプロジェクトメンバーも皆同様の意見だった。
ビジネスで当てる人は考えていることが違うなと。
でも、お金があったとしてもやりたいとは思わないなと。
ただ、今ならわかる。
ギャンブル性は徹底的に排除されていた。
むしろ、かなり安全なビジネスだった。
まず、国家レベルでの裏付けがあった。
グループホームは、厚生省が策定した2000年度から2004年度の計画であるゴールドプラン21で、2004年度までに3200ヵ所整備すると発表していた。その結果、施設数は、2020年時点で約1万2千ヵ所(厚生労働省)にも上る。
次にビジネスプロセスだ。
自社所有の土地で複数の直営施設を運用し、ある程度ノウハウが溜まった時点で、フランチャイズの展開を開始。並行して、地権者と交渉し、土地を借り受け、上モノを建て、集客。
グループホームは規模が小さいため、建設にも集客にも多くの時間を要しない。本業が病院という圧倒的な社会的信用がそれらを更に後押しした。
施設運用が開始されれば、あとは、介護保険という安定した収益によって、事業は回っていく。スタッフ確保、システム開発などに多額のイニシャルコストがかかるものの、フランチャイズ加盟企業からのロイヤルティーと本業の病院での収益で十二分にカバーできた。
(立ち上げ当初は看護師など病院スタッフを活用していた)
運用におけるリスク対策も万全だった。介護施設における最大のリスクは、入居者の事故や病気だが、総合病院の本業とシームレスな連携が当初から期待できた。
実際はもっと詳細かつ具体的に計画されていただろう。
改めて、ギャンブルではなく、安全でかつ確実に収益の上がるビジネスだった。
決して、単純に、表面的に「儲かりそうだ」という視点だけで投資を決断しているわけではなかったのだ。
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