いいアイデアが浮かばない根本的な原因

いいアイデアが浮かばない根本的な原因

冒頭から、最近見つけたすぐれたビジネスを1つ。

「miive」/株式会社miive
https://miive.jp/

導入企業ごとにカスタマイズ可能な福利厚生です。

従業員は予め会社から配布されたプリペイドカードをスタバなどのお店で使うと、補助が受けられるというもの。予め範囲や内容が決められた旧来からある福利厚生よりもグッと使いやすくなっています。

「福利厚生」×「カスタマイズ」×「プリペイド」。

見事としかいいようがない掛け算です。
(新しいアイデアは、”既存のもの”×”既存のもの”)

・・・・・こういうアイデア、出したいですよね。
でも、残念ながらそう簡単には思いつかないのが実情です。

なぜ、思いつかないのでしょうか。さまざまな理由がありますが、確実に影響しているものが1つ。

それが“人間の記憶”です。

記憶にはグラデーションがある

当たり前ですが、アイデアを出すとき自分の頭で考えますよね。
つまり、自分の頭の中にあるもの、記憶がアイデアの土壌です。

実際、人間の記憶容量はすごいです。
一説には約250万ギガバイトあると言われています。
テレビ番組約300万時間分の規模です。

ただ、知っていることと「呼び出せる」ことは大きく違います。
テレビのクイズ番組などで答えを聞いてから、「ああ、それなら知っていたのに」という体験は少なからずあるでしょう。

知っているけど、思い出せない。いいアイデアが思い浮かばない原因の1つがここにあるのです。

さっと思い出せるものとなかなか思い出せないこと、明らかな違いがありますよね。これは至極当然のことで、少なくとも人間の記憶には以下の図のような3層に分かれているためです。図のイメージは記憶全体を示しています。

楕円の中心にある①は、知っているし、理解できていることです。例えば、日常の仕事で使う専門用語など。いつでもすぐに思い出せますよね。

① の外側に広がっている②は、知っているけど、詳しいことは知らないもの。例えば、毎日のニュースでながれてくる情報。最近の例なら、ウクライナ問題。一部の専門家を除いて、多くの人にとってロシアもウクライナもそれほど詳しく知りません。

最後が一番大きな円。③です。そもそもよく知らないし、理解もしていないこと、です。この円がもっとも大きいでしょう。

この3層のうち、アイデアに必要となるのは、②と③です。

①は?となるかもしれませんが、ビジネスの場面で①は間違いなく「競合他社」と被ります。同じ業界であれば、互いにその内実はよく知っているでしょう。つまり、①をベースに新しいことを考えても“差別化”にはならない。

見落としていること。つまり、②と③にこそ差別化の“タネ”が眠っているわけです。

冒頭の例に当てはめてみます。
仮にあなたが総務担当だとしたら、「福利厚生」はすぐにでも思い出せる(常に頭の中にあるかも)でしょう。

では、カスタマイズは?プリペイドは?どうでしょう。だれかに言われたり、テレビなどで見れば思い出すかもしれませんが、自分の記憶だけではなかなか出てこないのが自然です。

どちらの言葉も上記の図で②に当たるものです。ほとんどの人が知っている言葉です。(この逆で、カスタマイズやプリペイドが①で、福利厚生が②に当てはまる人もいます)

が、出て来ない。

一方で、アイデアに必要なものは、日頃使っていないもの。これがいいアイデアが出てこない原因の1つなのです。

じゃあ、巷の本にあるようにどんどんインプットを増やせばいいのか。

いえ、限界があるでしょう。

そもそも”興味のないことを人間はそれほど強く記憶しない”という習性もありますし、受験勉強のような強制力でも作動しない限り、それほど残りません。

実際、少し前に読んだ本のこと、どれだけ覚えていますか?残念ながらほぼすべて忘れていますよね。

つまり、(カントみたいですが)人間である以上、記憶のグラデーションという制約条件から逃れることはできないわけです。

少々厳しい現実ですが、だからこそアイデアを出すことにそれだけ、それ以上の価値があるとも言えます。