コスト削減より利益が出る方法とは
- 2017.09.30
- コラム
売上が十分にあるにも関わらず利益、キャッシュ・フローが伴わない、といった財務的な相談を受ける。コストの見直しを徹底的に行なったにも関わらず、というケースだ。意外に見えるかもしれないが、そこには試算表など会計資料からのアプローチである各勘定科目の適正化の限界がある。
なぜ、コスト削減には限界があるのか
一般的に、利益やキャッシュ・フローが厳しい場合、まず着手するのが損益計算におけるコストの見直しである。原価による総利益、販管費による営業利益、それぞれの改善である。専ら中心になるのは、仕入れや外注費、人件費や広告宣伝費、家賃といった全体に占める割合の大きいものである。
これらの作業には、当然一定程度の効果は見込める。一時的ではなく、継続的に、定期的にレビューすれば、なおその最大化が望める。しかし、一方で2つの問題が伴走するようにつきまとう。
1つは、業務への支障だ。その性質上、最大のジレンマを引き起こすのが「固定費」だ。固定費は低ければ低いほど理想的だ。が、業態によっては、下げすぎることによって、業務そのものが回らなくなる恐れがある。わかりやすい例を挙げれば、飲食店における賃料などだ。立地がその優位性を左右する要素の1つであることが明らかな場合、集客などへ影を落とす恐れがあるため、過度な踏み込みは難しい。
もう1つが、コストの本来的性質である、売上のトリガーである点だ。仕入れや外注費などの原価、つまり変動費はその業種、業態によってそれぞれ違いはあるものの、完全になくすことはできない。販管費も同様に、人件費であれ、広告宣伝費であれ、恒久的に0とするわけにはいかない。
このことは、P/L(損益計算書)のみならず、キャッシュ・フローの母体であるB/S(貸借対照表)にも当てはまる。主体的に負債を圧縮するにも限界があり、間接的な資金調達への悪影響なども少なからず懸念されるからだ。
そもそも業務フローとは何なのか
上記のようなコストの削減にまつわる制約を乗り越えるために、ぜひ着手したいのがコストを生み出す根源的な存在である「業務フロー」の見直しである。
業務フローとはそもそも何なのか。例えば飲食店でいう「集客→来店→注文を受ける→調理する→配膳する→精算する→次の来店準備」といった業務の流れのことで、オペレーション・フローともいう。
業務フローは、キャッシュ・フローを「血液」で例える比喩表現になぞらえると、企業活動における「神経回路」にあたる。事業は集客や課金、回収、サービスや商品の提供機能などによって構成され1つのビジネスモデルを形作るが、それらの機能をまさに手足のようにつなげ、情報や資材などを伝達するもの、それが業務フローである。
飲食店や美容室など目に見える部分が多い業務であれば、その問題点は発見しやすく、改善するにも、また改善プランのトライアンドエラーも比較的実施しやすい。しかし、管理部門などオフィス業務では、業務遂行時のたびに、ひっかかりを感じつつも業務そのものの遂行が優先されるため、どうしても改善や見直しは後回しになりがちだ。当然、利益面への反映も短期的ではないという点もその背景に潜む。
どのように業務フローを見直せばよいのか
まずは、「現状分析」から始まる。現在の業務フローの洗い出しである。それぞれの部門において、どのような業務があるのか、それらをカテゴリーに振り分け、細分化された小項目ごとに具体的な手順までを書き出す。さらに各業務単位の作業ボリュームや発生頻度、定常/非定常の選別、リスト化を行ない、どのような業務群によってそのビジネスモデルが構成されているのかを俯瞰的に「見える化」する。
現状分析の次は、「ムリ・ムダ」のピックアップである。長年に渡る業務遂行の積み重ねによって、本来であれば実行する必要のない、例えば同一データを2重利用している、類似ファイルがサーバー内に溢れている、といったことがそこかしこに点在するのを浮き彫りにしていく。
なお、この段階で、明らかにムダだと判断可能な対象が見つかるが、すぐさま変更はしない。明文化されていない同一部門内他業務、または他部門への影響が推し量れないからだ。
続けて、浮かび上がったムリ・ムダの一群について、それぞれの取扱を設定する。プロセス全体、もしくは部分的に削減するのか、他の手法に置き換えるのか、などだ。例えば、昨今の人手不足状況下におけるプロセス自体の機能維持が困難なケースだ。直近でニュースにもなったコンビニエンスストアにおける自販機設置などがあてはまる。
各プロセスの取扱基準の設定を図った後は、いよいよ切り替えフェーズとなるが、いきなり全てを置き換えはせず、特定部門の小分類化された業務、例えば、経理部門の請求処理などの単位毎に実行していく。これは言及するまでもなく、最小単位でのリプレースを進めながら、事業全体への影響を最小限に留めつつ、その効果測定を行なうためだ。
こうした業務フローの改善は、コスト削減に比べ、その足取りは重く、また翌月の試算表などで著しい成果をもたらすことも少ない。が、その分着実に、いい意味でボディーブローのように効果を発揮する。このことは、様々な業界において、後発で生まれた新しい業態がその収益性の高さを誇るケースがよく見受けられることからも確かだ。
一度行って終わりではない
業務フローの見直しは、コスト削減と同様、一度行って完了ではない。外部環境の変化、人員増加など内部状況の変化などに合わせ、適宜レビューが欠かせない。例えば、サービスメニューや商品を変更した、社員を多く採用した、業務部門や拠点を増やしたといった変化のときである。
繰り返しになるが、相応の工数を必要とし、かつその結果が予め掴みづらいのが業務フローの見直しである。しかし、本来的な機能として業務フローが売上を生み出している以上、その精査や改善がプラスに働くことは間違いない。
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